【結論】基町アパートは人口15,000人の「まち」として設計された巨大団地です。
- 設計は建築家大髙正人(おおたか・まさと)
- 高層棟の完成は1978年
- 屋上庭園は全長1,200メートル
- エレベーターは偶数階にしか止まらない
- 広島城に合わせて8階から20階へ高さを変えている
- 基町アパートの規模と構成
- 「く」の字型・人工地盤・屋上庭園の意味
- なぜ今も名建築と呼ばれるのかの考察
- Aタイプ・Bタイプの違い
2026年8月23日(日)午前8時25分から、NHK総合「Dearにっぽん」が広島の団地を取り上げます。
その舞台が市営基町高層アパートです。
建築を学んだ人なら、一度は名前を聞いたことがある建物でしょう。
戦後の建築運動メタボリズムを牽引した大髙正人の代表作にあたります。
この記事では、建物そのものの設計を解説します。
【考察】なぜ半世紀たっても名建築と呼ばれるのか
ここからは編集部の考察です。
結論から書きます。
基町アパートが今も評価される理由は、意匠の美しさではなく、住民が勝手に手を加える余地を最初から設計に組み込んでいたことだと考えています。
そう考える理由を5つ挙げます。
理由1:そもそも「建物」ではなく「まち」として構想された
計画データを見ると、この団地の異常さが分かります。
4,500戸の住居に加え、小学校1、幼稚園・保育園が各1、店舗200、医院6、共同浴場3、さらに郵便局・集会場・公園・交番まで含まれていました(TD)。
設計に加わった建築家の藤本昌也は、これを「一小学校区の規模」と表現しています。
集合住宅ではなく行政単位ひとつ分を作ろうとした計画でした。
理由2:屋上庭園が「余白」として残された
最上階には4,000坪を超える屋上庭園が広がり、北から南への全長は1,200メートルに達します。
設計当初は砂場や池の設置も構想されていましたが、現在は一部住民による花壇の利用にとどまっています。
使い込まれたバケツやホースが並ぶ光景こそ、設計者の意図を住民が上書きした証拠だと考えます。
理由3:「く」の字型に、平等という思想がある
高層棟3棟は、屏風のように「く」の字に折れ曲がった形をしています。
これはすべての住戸の採光条件を平等にし、窓からの視界を広く確保するための措置です。
公営住宅で全戸の眺望を揃えるという発想は、当時としても徹底しています。
どの部屋に当たっても不公平にならない——その設計思想が、長く住み続けられる建物にしたと予測します。
理由4:広島城に高さを譲っている
建物を横から見ると、南に向かうほど低くなっているのが分かります。
これは隣接する広島城との調和を意図したものです。
天守閣に対峙する部分は8階建て、最も離れた場所は20階建て。
藤本は「少しでも調和のとれた都市環境を形成することを願って」と述べています。
理由5:メタボリズムの「新陳代謝」が実際に起きた
大髙が牽引したメタボリズムは、都市に有機的な新陳代謝を生み出すことを目指した運動でした。
実際、この団地では住民の高齢化と多国籍化が進み、商店街にはアジア系の店が増えました。
建築家の意図に収まらない形で、建物が生き続けている——それこそが理念の実現だと考えます。
以上は公開資料にもとづく考察であり、公式の評価ではありません。
基町アパートの基本データ
まず全体像を数字で押さえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 広島市中区 |
| 設計 | 大髙正人(高層棟) |
| 高層棟の完成 | 1978年 |
| 構想人口 | 15,000人 |
| 計画戸数 | 4,500戸 |
| 棟数 | 全20棟(1〜17号棟が中層/18〜20号棟が高層) |
| 人工地盤の広さ | 中央オープンスペース約3ヘクタール |
| 屋上庭園 | 4,000坪超/全長約1,200メートル |
行政上は1〜20号棟をまとめて「基町アパート」と呼びますが、大髙正人が設計したのは18〜20号棟の高層3棟です。
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三層に分かれた構造
基町アパートは、高さ方向に三層で構成されています。
| 層 | 用途 |
|---|---|
| 地下 | 広大な駐車場と地下倉庫 |
| 地上 | 基町ショッピングセンター |
| 最上部 | 人工地盤と呼ばれる緑地帯 |
ここで重要なのが「人工地盤」という考え方です。
ショッピングセンターの屋根の上が、そのまま歩行者用の地面になっています。
上階の通路を伝って集会所や学校へ行ける設計で、子どもの安全のために歩行者と車の動線を分けることが重視されました。
エレベーターが偶数階にしか止まらない理由
基町アパートで最も特徴的なのが、2階以上では偶数階にしかエレベーターが止まらない点です。
これはスキップアクセス形式と呼ばれる設計で、停止階を減らすことで共用部に吹き抜けを生み出しています。
エレベーターホールは「コアホール」と呼ばれ、天井高5メートルの空間です。脇にはダストシュートが設けられ、地上に降りずにゴミを出せます。
奇数階へは、偶数階の廊下から階段で上り下りします。
この偶数階2戸+奇数階2戸の計4戸で「1ユニット」とされ、ユニットごとに共用倉庫(1戸あたり1㎡)が備えられました。
| タイプ | 階 | 専有面積 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Aタイプ | 偶数階 | 36㎡ | 共用廊下に面する |
| Bタイプ | 奇数階 | 42㎡ | 階段でアクセス/両面採光 |
階段の手間が増える代わりに、Bタイプは広さと風通しを手に入れています。
よくある質問
Q1. 誰が設計したのですか?
高層棟の設計は大髙正人です。前川國男の建築事務所出身で、ル・コルビュジエの孫弟子にあたります。設計には建築家の藤本昌也も参加しました。
Q2. メタボリズムとは何ですか?
戦後日本で起きた建築運動で、都市に生物のような新陳代謝を持たせることを目指しました。大髙正人はその中心人物の一人です。
Q3. 建てられた背景は?
原爆投下で焼け野原となった広島の中心部で、川沿いの不法住宅と老朽化した復興木造長屋の建て替え先として計画されました。構想が始まったのは1960年代です。
Q4. 屋上庭園は見学できますか?
普段は一般開放されていません。ただし、時おり開かれる建築見学会で住民以外が訪れる機会があるとされています。
Q5. ショッピングセンターには何がありますか?
お好み焼き店やホルモン・焼肉店など昭和の風情を残す飲食店に加え、アジア系の食料品店が目立ちます。「基町中華街」と報じられたこともあります。福祉施設や葬儀店も入っています。
Q6. 近代建築の五原則との関係は?
ル・コルビュジエが唱えたピロティ・自由な平面・自由な立面・水平連続窓・屋上庭園という五原則のうち、とくに屋上庭園の影響が色濃く表れているとされます。
今後の見通し
この建物は、いま更新の局面に入りました。
17号棟は建て替えが決まり、基町第21・第22アパートとして新築工事が進んでいます。
2026年9月10日から13日には、団地内のギャラリーUnitéで「基町ののこし方」という展示が予定されています。
すべてを完成させず、住み手が手を加える余地を残すという提案が模型と資料で紹介される内容です(基町プロジェクト)。
これはメタボリズムの理念を、半世紀後にもう一度実行しようとする試みだと予測します。
まとめ
基町アパートは、大髙正人の設計により1978年に完成した広島市中区の市営住宅です。
人口15,000人・4,500戸という「まち」そのものとして構想されました。
「く」の字型の住棟、3ヘクタールの人工地盤、全長1,200メートルの屋上庭園、偶数階のみ停止するエレベーター。
いずれも住まい方から逆算された設計です。
この建物を舞台にした「Dearにっぽん」の放送は2026年8月23日(日)午前8時25分から。
なお初回放送は2025年10月12日で、今回は再放送にあたります。