【結論】名前の「フジ」は、南極観測船「ふじ」に由来します。
- 学名はFlabegraviera fujiae
- 採集は1981年1月16日(第22次南極地域観測)
- 場所は昭和基地西方「西の浦」・水深9m
- 新種として発表されたのは2017年1月
- 記載者のひとりが自見直人さん(当時 北海道大学)
- 放送は2026年8月9日(日)23時30分・Eテレ
- 採集から発表まで36年かかった意味(考察)
- 名前の3つのパーツの読み解き方
- 採集地・水深・発表年のデータ
- 「最も浅い記録」という論文タイトルの意味
- サイエンスZEROでの放送予定
南極の海で採られた1匹のゴカイの仲間が、
36年たってから新種になりました。
名前はフジキブクレハボウキ。
8月9日のサイエンスZEROに出る
自見直人さんが記載者のひとりです。
【考察】36年の空白は、標本庫が持ちこたえた時間
ここからは編集部の考察です。
結論から言うと、この36年は誰かが放置していた時間ではなく、標本庫が新種を保存し続けていた時間だと考えます。
理由1:採集と記載は、別の仕事だから。
国立極地研究所の発表によると、
この個体が採られたのは1981年1月16日、
発表は2017年1月19日です(国立極地研究所)。
南極でスキューバ潜水をして
生きものを持ち帰るのが第一の仕事。
それを顕微鏡で調べ、
過去の全記載と突き合わせて
「どれとも一致しない」と確定させるのが第二の仕事です。
この二つは担当できる人がまったく違います。
採る人はいても、名づけられる人がいない。
その間、標本は順番待ちになります。
理由2:多毛類は担当者が極端に少ない分野だから。
自見さんのラボの公式サイトには、
多毛類について「分類は難しく、その分類学的研究は必要とされながら遅れてきた」と
はっきり書かれています(菅島臨海実験所ラボサイト)。
魚や貝と違い、
食用でも観賞用でもありません。
研究人口が増える動機が弱い。
結果として記載待ちの標本が積み上がる構造になります。
36年という数字は、
個人の遅れではなく分野の人手不足を映していると考えます。
理由3:それでも標本が生き残っていたから成立した。
裏を返せば、
1981年の標本が2017年まで状態を保って保管されていたということです。
ラベルが消えず、
固定液が抜けず、
どこで誰がいつ採ったかの記録も残っていた。
ここが崩れていたら、
どれだけ優秀な分類学者が来ても
新種にはできません。
博物館や研究所の収蔵庫は
地味な設備に見えますが、
未来の発見をあらかじめ預かっている場所だと言えます。
今後も、すでに棚にある標本から
新種が出てくると予測します。
理由4:解ける人が現れて、初めて棚から出る。
2017年という年に動いたのは、
この標本を扱える人が現れたからだと考えます。
自見さんはこの論文の時点で北海道大学の大学院生。
博士号の取得は2019年3月ですから、
学位を取る前の仕事です。
共著には極地研の研究者も並んでおり、
南極の資料を持つ側と、
多毛類を読める側がその年にかみ合ったことになります。
標本は待てますが、
人が来なければ何も起きません。
36年という数字は、
保存の成功と人材の希少さが
同時に効いた結果だと予測します。
以上は公表資料からの考察であり、
記載が遅れた理由が公式に説明されているわけではありません。
番組で南極の話が出るかどうかも
放送前には分かりません。
名前は3つのパーツでできている
「フジキブクレハボウキ」は長い名前ですが、
分けて読むと意味が通ります。
| パーツ | 指しているもの |
|---|---|
| フジ | 南極観測船「ふじ」 |
| キブクレ | 厚い体表に覆われた見た目 |
| ハボウキ | 所属するハボウキゴカイ科 |
国立極地研究所の発表では、
命名は第22次観測で活躍した南極観測船「ふじ」に因むとされています。
学名の種小名fujiaeも同じ由来です。
標本を運んだ船の名前が種名になったという形になります。
採集は1981年、昭和基地のすぐ西
| 採集日 | 1981年1月16日 |
| 場所 | 昭和基地西方「西の浦」 |
| 水深 | 9m |
| 観測隊 | 第22次南極地域観測 |
| 掲載誌 | Zootaxa |
| 公開 | 2017年1月19日(ニュージーランド時間) |
水深9mという数字に注目してください。
スキューバで潜れるごく浅い場所です。
南極の海というと
深海のイメージが先に立ちますが、
この個体は基地のすぐそばで採られています。
論文タイトルにある「最も浅い記録」の意味
論文のタイトルは
「A new species and the shallowest record of Flabegraviera」で始まります。
shallowest record=最も浅い記録です。
新種の報告と同時に、
その属がどこまで浅い場所に出るかの記録も
更新したということになります。
分類学の論文が
単に名前を増やしているだけではないのは、
ここに理由があります。
1件の記載が
そのグループの分布図を書き換えることがある。
浅い場所で見つかったなら、
これまで調べていなかった浅場にも
同じ仲間がいる可能性が出てきます。
記載したのは北大と極地研の5人
- 自見直人(北海道大学大学院 理学院)
- 辻本惠(国立極地研究所)
- 渡邉研太郎(国立極地研究所)
- 角井敬知(北海道大学大学院 理学研究院)
- 柁原宏(北海道大学大学院 理学研究院)
自見さんはこのとき大学院生でした。
博士号の取得は2019年3月ですから、
その2年前の仕事にあたります。
のちに国立極地研究所へ移り、
現在は名古屋大学 菅島臨海実験所の講師です。
南極から三重県の島まで、
守備範囲が広い研究者だと言えます。
よくある質問
Q1. 読み方は?
ふじきぶくれはぼうきと読みます。
「ふじ」「きぶくれ」「はぼうき」で
区切ると覚えやすくなります。
Q2. ハボウキゴカイとはどんな仲間ですか?
ゴカイなどと同じ環形動物・多毛類のグループです。
学名の科名はFlabelligeridae。
体の表面が独特のつくりになっているのが特徴とされます。
Q3. 南極の固有種ですか?
自見さんのラボの公式サイトでは、
南極固有種として紹介されています。
特異な骨片を持つ点も記されています。
Q4. 観測船「ふじ」は今どこにありますか?
本記事で扱った発表資料には記載がないため、
ここでは触れません。
新種の名前の由来として
船名が使われた、という点のみが公表事実です。
Q5. サイエンスZEROでこの種は出ますか?
番組の予告に個別の種名はなく、
取り上げられるかどうかは不明です。
テーマは医療・防災・脳といった
ゴカイの応用面が中心とされています。
まとめ
フジキブクレハボウキは、
1981年1月16日に昭和基地の西・水深9mで採られ、
2017年1月に新種として発表された
南極のゴカイの仲間でした。
名前の「フジ」は南極観測船「ふじ」から。
36年という空白は、
標本が待っていた時間でもあります。
記載者のひとり、自見直人さんが出る
サイエンスZEROは8月9日(日)23時30分・Eテレ。
ゴカイという言葉の裏に、
南極まで届く仕事があります。