【結論】千葉聡さんが追ってきたのは、小笠原諸島の固有カタツムリです。
- 小笠原の在来陸産貝類は106種
- うち100種が固有種(およそ94%)
- 1990年代から父島で急激に減少
- 原因は外来のニューギニアヤリガタリクウズムシ
- 千葉さんはこの分布変化を調査してきた
- 放送は2026年8月9日(日)朝6時・Eテレ
- なぜ島のカタツムリが研究対象になるのか(考察)
- 小笠原が「東洋のガラパゴス」と呼ばれる理由
- 固有種を襲った外来生物の正体
- 「絶海の孤島での調査」がどんな作業なのか
- NHK短歌での放送予定
NHK短歌の8月9日放送回で、
ゲストの千葉聡さんが語る「あの夏」は
絶海の孤島でのカタツムリ調査だと
番組情報に書かれています。
なぜカタツムリなのか、なぜ島なのか。
その背景にはかなり切実な話があります。
【考察】島は進化の実験場であり、同時に最も壊れやすい場所
ここからは編集部の考察です。
結論から言うと、研究者が島へ渡り続けるのは、島が進化を観察できる唯一の縮図でありながら、同時に真っ先に失われる場所だからだと考えます。
理由1:固有種の割合が異常に高い。
小笠原諸島の在来陸産貝類は106種で、
そのうち100種が固有種とされています。
割合にしておよそ94%。
これは大陸から切り離された島で
それぞれが独自に枝分かれした結果です。
教科書の「適応放散」が
現物として目の前にある状態といえます。
理由2:たった一種の外来生物で崩れた。
父島では1990年代から陸産貝類が急減しました。
原因とされるのが、1990年前後に侵入・定着したと考えられる
ニューギニアヤリガタリクウズムシという
陸生のプラナリアです。
カタツムリを食べるこの生きものが入っただけで、
何百万年かけて分かれてきた顔ぶれが
短期間で消えていきました。
東京都も侵入防止対策を公表しています(東京都小笠原支庁)。
理由3:記録がなければ「何が失われたか」すら分からない。
島の生きものは分布が細かく分かれているため、
誰かが足で歩いて数えないと実態がつかめません。
千葉さんの調査は、
減っていく過程をリアルタイムで記録する仕事でもありました。
夏に島へ渡るのは、
ロマンだけでは説明のつかない切迫した作業だったと予想します。
なお、番組で具体的にどの島の話が出るかは
放送前の時点では分かりません。
ここに書いたのは公表資料からの考察であり、
番組内容そのものの予告ではありません。
小笠原が「東洋のガラパゴス」と呼ばれるわけ
小笠原諸島は一度も大陸とつながったことがない海洋島です。
たどり着いた生きものだけが定着し、
島ごとに姿を変えていきました。
| 在来の陸産貝類 | 106種 |
| うち固有種 | 100種(約94%) |
| 特徴 | 島・谷ごとに分化 |
| 脅威 | 外来プラナリア、ネズミなど |
千葉さんの著書『歌うカタツムリ』にも
「東洋のガラパゴス」という章があります(岩波書店)。
この島がどれだけ特別な場所なのかは、
研究者にとって説明するまでもない前提なのでしょう。
カタツムリを襲った外来生物
名前が長くて覚えにくいのですが、
ニューギニアヤリガタリクウズムシという
陸に住むプラナリアの一種です。
もともと小笠原にはいませんでした。
- 侵入・定着は1990年前後とみられる
- 父島で陸産貝類が急減した
- カタツムリを捕食する性質を持つ
- 東京都が侵入防止対策を実施している
千葉さんはこうした外来の天敵というテーマを
2023年の著書『招かれた天敵』でも扱っています。
害虫を退治するつもりで持ち込んだ生きものが
思わぬ結果を招いた歴史をたどる本です。
小笠原での経験が、
この問題意識の土台にあると考えられます。
「絶海の孤島での調査」とはどんな作業か
華やかな響きですが、実際は地味な仕事です。
カタツムリの調査は基本的に
歩いて、探して、数えるの繰り返しになります。
小笠原へは船でしか行けません。
東京から片道でおよそ24時間かかり、
便数も限られています。
いったん島に入れば、次の船まで数日は帰れない。
そのあいだ、湿った林の中で
数ミリから数センチの殻を探し続けることになります。
夏は雨も虫も多く、決して快適ではありません。
それでも「あの夏」として記憶に残るのは、
そこでしか見られないものがあったからでしょう。
千葉さんには児童向けの著作
『カタツムリ 小笠原へ』もあり、
島への思い入れがうかがえます(福音館書店)。
『歌うカタツムリ』の目次から研究の全体像が見える
千葉さんの代表作『歌うカタツムリ』は
2017年6月に岩波科学ライブラリーの1冊として出ました。
目次を眺めるだけでも、
研究の関心がどこにあるかが伝わってきます。
| 章 | タイトル |
|---|---|
| 1 | 歌うカタツムリ |
| 2 | 選択と偶然 |
| 3 | 大蝸牛論争 |
| 4 | 日暮れて道遠し |
| 5 | 自然はしばしば複雑である |
| 6 | 進化の小宇宙 |
| 7 | 貝と麻雀 |
| 8 | 東洋のガラパゴス |
| 9 | 一枚のコイン |
8章に「東洋のガラパゴス」が置かれているのが
今回の話とつながる部分です。
版元の紹介文は
「行きつ戻りつしながらも前進していく研究の営みと、
カタツムリの進化を重ねた壮大な歴史絵巻」。
206ページの新書サイズながら、
研究史そのものを物語として読ませる構成になっています。
よくある質問
Q1. なぜカタツムリで進化が分かるのですか?
移動する距離が短いためです。
谷ひとつ隔てるだけで行き来がなくなり、
集団が別々に変化していきます。
しかも殻が残るので過去の記録もたどれる。
進化を比べる材料としてとても扱いやすいのです。
Q2. 小笠原の固有種はどれくらい減ったのですか?
父島では1990年代から急激な減少が起きたと報告されています。
ただし種ごとに状況が異なり、
「全体で何%減った」という単一の数字は
確認できませんでした。
Q3. その外来生物は今もいるのですか?
東京都が侵入・拡散の防止対策を続けており、
他の島へ広げないことが重視されています。
すでに入ってしまった場所からの完全な排除は難しいとされ、
現在も対策が継続しています。
Q4. 千葉さんは小笠原だけで調査しているのですか?
いいえ。
調査範囲は北はシベリア、
南はニュージーランドまで広がっています。
ただし小笠原は代表的な調査地のひとつで、
著書でも繰り返し取り上げられています。
Q5. 番組ではどの島の話が出るのですか?
番組情報にあるのは
「絶海の孤島でのカタツムリ調査」という表現までで、
島の名前までは公表されていません。
放送を待つ必要があります。
Q6. 一般人でも見学できますか?
研究調査そのものへの参加はできませんが、
小笠原諸島は観光で訪れることが可能です。
ただし世界自然遺産のため、
立ち入り制限や外来種の持ち込み防止ルールがあります。
訪問前に公式情報の確認が必要です。
まとめ
千葉聡さんが夏に渡っていた「絶海の孤島」は、
在来106種のうち100種が固有種という
世界的に見ても特別な場所でした。
その顔ぶれが、外来のプラナリアの侵入によって
1990年代から急速に崩れていきます。
そこにいたのは、
失われていく過程を数え続けた研究者です。
放送は8月9日(日)朝6時・Eテレ。
その夏がどんな31文字になるのか、
背景を知ってから見ると受け取り方が変わりそうです。